忍者ブログ
archiveつかstorage 恥の極み
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。




  【ツボ】


フォン♪

櫻井がロータリーに姿を現すとすぐに、軽いクラクションが合図をしてきた。

浮き立つ心を押さえながら駆け寄ると、

中からドアが開いて無理に笑顔を抑え込んだ大野が顔を覗かせた。

「ども」

「…す、すいません…急に、あの、不躾にお誘い、して…」

「……プっ」

最初はどことなく複雑な顔をしていた大野も、その様子を見てつい噴出した。

「(笑)…それ、なんだよなぁ…」

「え?…あの?」

「ふふ、なんでもない!…どこへ行けばいいかな?」

「…あの、今日は時間は、どれくらい…」

「えーとね。……僕が6時上がりで…えっと、10時半くらいだから…

10時くらいまで大丈夫、かな…」

その時間から約束の相手がスパンコールだと気付いて、胸が痛んだ。

「あ、…でも遅くなると、お腹空くよね。ごめんね?」

「いえっ!」

いかにもすまなそうに謝る大野の様子があまりにキュートで、櫻井は真っ赤になった。

「?」

「…あ、…いえっ、あの…飯が遅いのも、抜くのも、…あの、…慣れてます、から…」

「へぇ~大変なんだね。大学院って。」

「いえ…あの…大野さんは城山公園に行かれたことは、ありますか?」

「あぁ~…んー、あるような気…も、する…」

「(笑)あやふやですか?」

「んー…場所の名前とか、…あんまり、憶えないんだよ……」

語尾が小さくなっていく大野が、可愛すぎた。

「じゃ!行ってみませんか?」

「…今から?夜の公園は怪しいか怖いか(笑)」

「(慌)え?あ!、あのっ?!そ、そういうことじゃな、く…って!!」

「…くっ…くくく…」

大野が爆笑しだした。

「…?」

「あー、たまらん!櫻井さんって、なんでそんなにツボなんだろう(笑)」

「……(真っ赤)」

「そこ行こう!道案内できる?」

「…はいっ!」



2人は車から離れて、城山公園をゆっくり話しながら登って行った。

「…そこそこの高さだね」

「意外と息が切れるでしょ?」

普段からそんなにおしゃべりではない二人。

研究者のくせに営業向きだと言われることもあるほど

愛想が良く話題も豊富で気遣い屋の櫻井だが

この人といると気を遣わなくても話が湧いて出てくる感覚が不思議だった。

大野はもともと口数は少なくてもユーモアがあって聞き上手ではあるが

ふとした沈黙すら心地よいこの相手は珍しく…

いまだにその理由がよくわからず、戸惑っていた。



  【怪我の功名】


「……マジか…」

2人は茫然と立ち尽くしていた。

車を停めてしばらく歩いて着く…はずの場所に。

『工事中・立ち入り禁止』

「……」

「な、…なんで…」

「書いてある…

…こないだの豪雨でどっか崩れたみたいよ?…危険だから、だって」

「そんな…半月ほど前には、普通に入れたのに…」

「……」

「…そんなぁ……」

町はずれにあるこの公園の少し小高くなった丘に登って見る夜景がきれいで、

二人でそれを見たいと思っていたのにっ!

今にも泣きだしそうになっている櫻井を見て、また胸が温かくなるのを感じた。

「まぁ、しょうがないじゃん…ちょっと散歩でもする?」

「……すっごい、…夜景が、きれいなんですよ…」

「(苦笑)そりゃ絶好のデートスポットだ。……下見か何か?」

「違うっ、あなたに見せたかっ…!」

うっかり口走ってしまって、余計に焦りだした櫻井がやはりツボだった。

「(笑)そりゃどうも。んふ、僕らがデートみたいだね?」

そう思っちゃいけませんか?!

櫻井は心で叫んだが、口に出す勇気はまだなかった。

「じゃ、デートなら、…んーと、こうか?」

大野が躊躇うこともなく腕を組んできて、

櫻井はその場に根が生えたように固まってしまった。

「じゃ、とりあえず海に向かっ……櫻井さん?」

「…」

大野の手が触れたところがかぁっと熱を持って、櫻井は眼を見開いたまま身体を固くしていた。

(おっ、…落ち着けっ…大野さんには何の他意もないんだから…

こんなにドキドキしてたら、…やべぇ…やべぇ…やべぇ!)

「おーい、…櫻井さん?」

目の前で開いた手をひらひらさせてみるも、反応がない。

「?」

組んだ腕を少し解いて、両手で肩を掴み急に目の前に顔を近づけた。

「さーくらーい!!」
「わぁぁっ!!!」

突然の大声にハッと我に返ると愛しい顔が至近距離にいて、思わず大声を上げてしまった。

「ぅゎっ、…しぃーっ!」

「あ、す、すいませんっ(汗)」

はっ、恥ずかし…!もう、もう絶対、呆れられてる(涙)

「…ダメだよ、夜なんだから、しー、ね?」

ところが相手は怒るどころかあまり気にしていないらしく、

唇をとがらせて人差し指を当て、にっこり笑った。

「ぁ…す、すいません…!!」

「ホント面白いなー♪好きだなー♪」

「!」



  【】
PR
HN:
tororo
性別:
非公開
tororoが某所で書いていたお話を移築。誤字・変換ミスの訂正や、もともと文字数制限などで割愛した箇所だけを補足しています。基本はそのまま。恥ずかしい。
リンク
忍者ブログ [PR]